本年六月より健寿協同病院、老健あかねで勤務することになり、高齢者医療、介護の分野での活動が主な仕事となりました。よく言われておりますように、2020年には人口の四人に一人が高齢者(六十五歳以上)になりますので、高齢者医療の重要性が今後さらに増していくことは確実です。そこで最近高齢者医療の分野でよく使われる「老年症候群」という言葉を紹介させていただきます。
老年症候群の意味
青壮年者には見られないが、加齢とともに現れてくる身体および精神的諸症状、疾患を指します。青壮年者の病気は一つの臓器に限られることが多いのですが、老年症候群は多くの臓器、疾患が関与した症状、疾患であることが普通です。
老年症候群の生じる原因
1.加齢に伴う諸器官の生理的機能低下
2.体動の低下に伴う廃用症候群
3.の廃用症候群は安静、不活動、不動による心身機能の低下を指しますが、高齢者は?@によりすでに機能低下がありますので若い世代に比べて予備力が小さく容易に陥りやすいのです。
老年症候群の諸症状、疾患とお互いの関連性(図)
老年症候群として何を挙げるかは研究者によって異なりますが、図に示したような十三項目を挙げる研究者(林 泰文)もいます。これらの一つの項目の原因は一つの病気だけでなく多くの病因が影響しあっており、さらにそれぞれの項目はお互いに関連していますので高齢者の症状を理解しようとするときは多くの側面に注意を払う必要があります。
実際の例
老年症候群の一つの歩行障害について説明します。あるお年寄がもともと加齢による変形性関節症により膝が痛く歩きにくかったところへ軽い脳梗塞が起きてさらに歩きにくくなりました。すると家で安静にしていることが多くなり廃用症候群により下肢の筋力が低下してさらに歩きにくくなりました。このためほとんど家にいるようになり活動量が減ったため眠れなくなり眠剤を飲むようになりました。この眠剤の副作用で脱力感やふらつき(医原性疾患)が生ずる事があり、異常姿勢や易転倒性も見られるため歩きにくさがさらに増すので外出しないという悪循環に陥ります。これらの結果、閉じこもり現象が生じてきました。これが長期間続くと寝たきり状態となり摂食、嚥下障害も生じて肺炎になりやすく命にも関わる状態となってきます。
老年症候群への対処方法
このように老年症候群の原因、症状は多様であり、それぞれが連鎖的に関連し、悪循環を生じやすいのが特徴です。従って高齢者医療に携わる我々はこのことに十分留意して診療しなくてはなりませんし、さらには高齢者の方およびその後家族の方にもこのことをよく知っていただき、多少苦痛があっても廃用症候群の予防、治療のためのリハビリを行うなどして悪循環を断ち切ることにご協力をお願いしたいと思っています。